愛川町のS様邸に納めた建具です。奥の和室と手前の応接室を間仕切るための引き違い戸です。
S様は以前にもいくつか家具をオーダーいただいていますが、今回ご注文いただいたのは建具でした。ひょうたん蔵は建具屋ではないので最初は丁重にお断りしていたのですが、以前納めたキッチン収納をとても気に入っていただいていて「ここの建具も是非ともひょうたん蔵に作ってもらいたい。」なんておっしゃってくださったのです。こんなありがたいお言葉をいただきながらお断りするなんてバチが当たりますよね。
…というわけで、ひょうたん蔵としては珍しく建具のオーダーにお応えすることになったのです。
まずbeforeをご覧いただきましょう。↓
今まではこんな三枚戸で仕切られていました。洋室側は木目調のフラッシュ戸。
反対の和室側から見ると襖になっています。こんな感じのリバーシブルの戸になっていました。
S様のご要望はこの二部屋の見通しを良くしたいということと、三枚戸から二枚の引き違い戸にしたいとのことでした。
基本的には表裏違うデザインにするなんてことはしたくありませんから和室にも洋室にも合わせられるデザインであることが必須条件でもあります。
それと、炬燵でゴロゴロしているのが丸見えになってしまうだろうから、せめて腰高までは目隠しした方が良いと思って、下半分は羽目板風にしたデザインもいくつかご提案したんです。
ですがS様はとにかくスケルトンな間仕切り戸にして解放感を求めていらっしゃったようです。それでこのデザインをお選びになりました。
奥様は大変お掃除好きな方でして、お部屋もいつも片付いていらっしゃるお宅でしたから、客間から奥の部屋が丸見えでも全然OKでしたね。
和室側から見たところですが、こちらも違和感ないでしょ?応接室側から見たのと色が違って見えますが、これは光の加減でこう見えるだけで塗装の色などを変えているわけではありませんよ。両面ともクリアのオイル仕上げです。
この引き戸は高橋金物の吊り戸金物を使っています。鴨居に元々掘ってある溝幅にピッタリと嵌るレールを探すのに苦労しました。この引き戸の重さは一枚25キロあるんですが、この金物のおかげで全然重く感じません。
S様邸にはとても元気なお孫さんがしょっちゅう遊びに来られるそうなんですが、もし家の中を走り回って戸に激突されても大丈夫なように、割れない素材で作ってほしいとのご要望もありました。
強化ガラスかガラスに飛散防止フィルムを貼るという手もあるのですが、重さの問題もありましたので今回はポリカーボネートを使用しました。
ポリカは耐衝撃性・耐熱性・難燃性などにおいて非常に優れている素材です。耐衝撃性は一般的なガラスの250倍以上といわれているそうです。これならまず割れる心配はありませんが、何らかの理由で交換することもあるかもしれませんので、一応、取り外しできるようにしておく必要はあります。
…というわけで片側の縦框はホゾ組加工はしてありますが接着剤は使用しないで外せるようにしてあります。
ポリカは横框の溝の間をスライドして入れるようにしました。中の束は2枚に割れているのでそのままスーッと差し込んでいけます。
ポリカを差し込んだ後、また縦框を組み直します。
接着剤を付けないので、はずれてこないように木端からビス止めしておきます。
ビス頭隠しのために縦框に溝を突いておいて、そこにピッタリ幅の棒を嵌めこみます。
こうすることでビスや釘がどこからも見えないようにすることが出来ました。どこからどうやってポリカを入れたのか、言わなければたぶん誰にもわからないと思います。
建具の製作は専門分野ではないのでノウハウもあまりなく四苦八苦しましたが、今回の件でいろいろと勉強することができてとても有意義なオーダー品でした。この経験がまたどこかで活きる時が来るでしょう。
材種:ウォールナット無垢材、ポリカーボネート
仕上:オイルフィニッシュ
サイズ:1360(W)×1762(h)…一枚分のサイズ